今回は珍しくオーディオの話し。
私が物心ついた子供の頃、大型のステレオで流行りのレコードを聴くというのは
若者のあこがれであり、とても贅沢な趣味でした。
またいつかは高級乗用車が買えるほどの金額をつぎ込んで、音質を追求したいというのは、
その世界に足を踏み入れた者なら一度は描いた夢でした。
また家電業界的にはオーディオという分野は、当時としては最先端を行く
ものでしたから、ヒト、モノ、カネについてはどこのメーカーもかなりつぎ込んでいたはずです。
本屋の雑誌の売り場に行けば、オーディオに関連する雑誌が現在のパソコン誌のように
広くスペースを占めていたものです。
しかし残念なことに、バブル景気がはじけて以降、すっかりオーディオという趣味は
衰退してしまいました。
大手家電メーカーはオーディオから手を引き、オーディオしかやっていなかった専業メーカーは
潰れてしまったところもあります。
95年頃からはパソコンが急激に普及し、身近なものになり、電器業界や家電量販店の
売り上げの構成比がすっかり変わったと言うこともあるでしょう。
最近の家電店に行ってみると、昔の様な大型のスピーカーは陳列されていることはなく、
いわゆるミニコンポや携帯音楽プレーヤーの売り場ばかりが目立ち、
すこしばかりオーディオに足をつっこんだ私としても、少々寂しい気がします。
で、そんな私の楽しみがハードオフのような中古品店。
良くヒマを見ては(買うわけでもないのに)アンプやスピーカーなどの
掘り出し物を探して歩くのです。
「お〜!こりゃ良いスピーカーだなあ〜、けど高くて買えないよ〜」などと、
物欲を刺激して楽しむわけですね。
で、それで見つけてしまった掘り出し物。
ダイヤトーンDS-77HRX。
ダイヤトーンは、三菱電機の今はなきスピーカー専門の部門で、数多くの名機を
世に送り出しました。当時はスピーカーといえばダイヤトーンといったくらいで、そういう名門の
メーカーが無くなってしまったのはとても残念なことです。
(現在、再びスピーカーを製造するようになったようですが、
大変高額な機種が1機種のみで、昔とはだいぶ異なる状況のようです)
この機種は今から21年前(!)、1988年発売、いわゆるゴーキュッパ(59800円)クラス、
入門クラスのもので、当時の定価は62000円×2でした。
高さ68センチ、幅38センチ、奥行きは約30センチ、
ウーファーの口径は31センチ、重さ約27キロと、昨今のAV業界からみればかなり大型。
この頃はバブル経済華やかなりし頃で、オーディオ業界も好景気、他のメーカーに
負けまいと採算度外視で物量を投入した、コストパフォーマンスの高い機器が多かった時期です。
すでに20年も経過した物なので劣化が気になりましたが、店頭で音を出してもらうと、
一応ちゃんと音は出る模様。断線はしていないようです。
前のオーナー氏が大切にしていたのか、金属部のサビはなく、汚れも少ない。
キャビの角をぶつけたりしたのか、多少の角のはがれ等はありましたが、致命的な傷はない様子。
キャビネット(箱)は板厚もかなり厚く、頑丈なようで良い音がしそう。
これだけ状態が良いと中古でも普通数万円ぐらいはしそうな物ですが、年式が古いためか左右セットで1万円。
気に入らなかったらすぐ売ればいいや、そう高い物じゃなし、と思い切って自宅に連れて帰りました。
わたしはオーディオ趣味を始めるとまもなく、自作スピーカーに
走ってしまったので、こういうメーカー製の売れ筋品の大型スピーカーは
使ったことがありませんでした。
自作スピーカーというのは故長岡鉄男氏設計のバックロードホーンというもので、
メリットもあればデメリットもある、ある意味クセの強いものなので、
一度ちゃんとした(?)メーカー製の3ウェイスピーカーを聴いておきたいという思いが
ここ数年ほど、強くなっていたところなのでした。
さて、仮設置で、今まで使っていたスピーカーの前に置く形で視聴してみたのですが、
果たして音を出してみると・・・。おぉ!なんて美しい音がするのでしょうか!
「中高域に濁りがなく、きれいな音がする」
「エコー音(ボーカルなどに人工的に付加した残響音)をきれいに再生する・・・
直接音と間接音の分離がきれいになされる)」
「余計な雑音が出ないので、静かな音楽が美しく再生される。静寂感が素晴らしい。」
チェロなどの弦楽器、女性ボーカルのポップスなどは実に美しく再生され、聞き惚れてしまうほどでした。
(今井美樹の昔のベスト盤が絶品でした。(^^) )
3ウェイならではの分解能とでも言うのでしょうか、普段使っている自作SPよりも細かい音の表情が
良く聞き取れます。
中音域を受け持つスコーカーが500Hzから上を再生する・・・ということは、軽く小さい振動板が
比較的広い範囲を再生するということですから、女性ボーカルなどの再生には有利。
スピーカーによっては2000Hz位までウーファーが受け持つものがありますが、
あんなでかくて重い振動板に人の声とかピアノとかバイオリンとかの中音域を
再生させたくありません・・・、主観ですが。
自作のバックロードは色々良い点もあるのですが、やはり一つの振動板から
低音から高音まで再生する限界を感じる様な気がしました。
ただ、良いことばかりでもなく、自作バックロードに較べると、低音が弱い。
ホントに31センチのウーファーなの?と首をかしげたくなるくらい、低音が軽く力がない。
もう少し低音に厚みや重量感、力感が欲しい。・・・と思いましたが、21年も経っているので、
ウーファーの磁力が弱っているのかもしれません・。
まあ、引退していてもおかしくない様な古い物を、むち打って使っているのですから
文句は言えますまい。
新品当時の販売価格は決して高価な物ではなく、たとえばアマチュアが同じ値段で
3ウェイのスピーカーを自作したら、この音を超えることは出来るだろうかと考え込んでしまいました。
ベニア板の切り口が見えるような工作なら手軽で安価にできますが、家族の不評を買わない程度の
仕上がりにするにはそれなりのコストや手間ヒマが掛かります。
濁りのないクリアな音質だけでなく、頑丈なキャビネット、ほころびのないきれいな外観仕上げ。
たくさん生産することでコストが下がる量産効果というのもあるでしょうが、
こんな安いコストの初心者向けの製品ですら、これほどの完成度で提供できるというのは、
やはりメーカーにしか出来ないことですし、最低限の水準などとは次元の違う
メーカーの職人技というか、メーカー、プロとしての意地や誇りのような物を感じます。
エントリークラスのスピーカーでこれほどの音がするのなら、もっと上のクラスではどんな音がするのか
興味が湧いてきます。当時あこがれていたDS-2000、どこかで安く売ってないかしら。
ともあれ、たった1万円でこれほどのスピーカーが買えたのですから、安い買い物でした。
なお、近所迷惑になるため、あまり音量は上げられませんでしたが、その範囲では
キャビネットの鳴り(音圧による振動)もほとんど感じられませんでした。